失われた公演

渡辺源四郎商店 第33回公演
『大きな鉞の下で』

公演団体

渡辺源四郎商店

作・演出

畑澤聖悟

宣伝美術

工藤規雄+渡辺佳奈子

公演日程会場
2020年5月3日(日・祝)~5月6日(水)ザ・スズナリ
2020年5月16日(日)~5月20日(水)渡辺源四郎商店しんまち本店2階稽古場

コメント

渡辺源四郎商店第33回公演『大きな鉞の下で』はGWの東京公演と5月中旬の青森公演、計11ステージを予定していた。2月16日が顔合わせで、本格的な稽古は3月7日スタート。原子力施設が立ち並ぶ架空の村を舞台に、ある独裁国家の指導者と、彼を崇拝する青年が織りなす不思議な物語である。今回の出演者は9人。奇しくも全員が、私が顧問を務める青森中央高校演劇部の卒業生で、これは旗揚げ以来初。若い座組だけに芝居の立ち上がりが早い。いい手応えだ。順調に稽古は進んだのだが、青森県に初の感染者が確認された3月23日あたりから風向きが変わった。東京は「ここが正念場」と言われ始めてから3週間が過ぎており、感染者も140人を越えていた。こんな状況でGWに東京公演が出来るのだろうか? この頃、東京での演劇公演は中止が相次いでいたが、小劇場では予定通りの上演が少なくなかった。我々も会場を消毒し、座席を間引き、入場者を検温し、上演中に換気を行い、できる限りの対策を講じつつ公演を行うつもりでいた。しかし、刻々と変化する状況はそれを許さない。大きかったのは青森・東京間の移動の問題である。この状況ではどう考えても遠征は無理。劇団員とその家族を危険に晒すことは出来ない。

公演断念を決めたのは4月3日。まず完成した台本を全員に配布した。稽古しながら台本を書き進め、書き直しながら練り上げるスタイルなのでいつも脱稿が遅い。今回、未完のままでは申し訳ないので死ぬ気で書き上げたのである。ラストシーンについて語った後、「東京公演は無理」と全員に告げた。東京からスタッフを呼ぶ必要のある青森公演も同様の理由で難しい。全員から意見を述べて貰った。みな一様に悔しさを述べたが、同時に自分の職場のことを語った。飲食店店員、保育士、小学校教員、市役所職員、看護師である彼らは、自分の職場を、お客様を、子供たちを、患者を守るためには仕方がない、と口を揃えた。

東京でなく青森で生活することを選び、同時に演劇を生活の中心に置くことを選ぶ。渡辺源四郎商店ならそんな生き方が可能だ。そのためには自立した社会人となり、仕事を持たねばならない。そして、青森だけでなく東京やいろんな街で公演を打ち続け、作品のクオリティを証明しなければならない。どちらも地域の力となり、地域を守る仕事である。今回、ひとつを諦めたが、ひとつを貫くことはできた。そう考えている。

畑澤聖悟(渡辺源四郎商店店主)/2020年9月23日

関連リンク

https://www.nabegen.com

資料提供

なべげんわーく合同会社

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