失われた公演

新型コロナウィルス禍のなかの東京芸術劇場

高萩 宏(東京芸術劇場 副館長)

2020年2月26日の政府からのイベントの自粛要請を受けて、東京芸術劇場では初日を控えた野田秀樹作・野上絹代演出の「カノン」の公演を丸ごと中止することとした。その後、3月27日の木下順二作・演出大河内直子の「冬の時代」が最後の観客を入れた公演となり、4月7日の政府による非常事態宣言を受けてすべての施設を閉館とした。

4月半ば、芸術監督の野田秀樹の発想で、演劇界の被害状況調査を始めた。中止した公演のチケット代を払い戻ししたが、かかった経費は支払わねばならない興行側の痛手は深く、それが、緊急事態舞台芸術ネットワークの創設につながった。小劇場から新劇、そして商業演劇・スタッフ会社までの国内の舞台芸術系団体が200以上集まり、代表世話人に東宝の池田篤郎、野田秀樹、劇団四季の吉田智誉樹の3人を選んでスタートした。業界の状況を内外に伝えるとともに、再開のためのガイドライン作成、補正予算の獲得、外国人アーティストの入国緩和など政府との交渉にあたっている。

東京芸術劇場は6月8日に館としては開館とはなったが、稽古期間が必要な演劇公演は容易に始められなかった。演劇の最初の公演は、7月24日、シアターイーストでの東京演劇道場の野田秀樹作・演出の「赤鬼」になった。一昨年に1,700人以上の応募者から野田秀樹がオーディションで選んだ道場生が、6月半ばからリモートなども取り入れて稽古を始め、4組に分かれた公演を行った。

東京芸術劇場は、2020年はちょうど30周年にあたっている。9月現在、10月30日の開館記念日での公演を目指して、井上道義指揮・総監督、野田秀樹演出のモーツァルト/歌劇「『フィガロの結婚』~庭師は見た!~」と、野田秀樹作、シルビィウ・プルカレーテ演出「真夏の夜の夢」の稽古を行っている。無事、幕が開き、東京芸術劇場の30周年をお客様と共に祝うことができるよう祈っている。

9月19日から、政府による室内のイベントの観客数の5割制限は解除され、徐々に観客は戻りつつある。しかし、一席飛ばしで売った席の間の席をいきなり売りに出すわけにはいかず、また制限が解除になったからと言ってこの状況で観客が押し寄せるわけではない。しかもその後、舞台上でのクラスター発生と思われる事象が起こり公演中止になる事例が出たり、冬が近づいてきてインフルエンザの流行の可能性が取りざたされたりする状況では、まだまだ緊張する日々が続くと思われる。数年は続くと予想されるウィズコロナの中で「演劇」をどう続けていくのか、模索の日々が続いている。

2020年9月27日

東京芸術劇場
https://www.geigeki.jp/

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