新型コロナウイルス高校演劇への影響
工藤千夏(日本劇作家協会高校演劇委員)
監修:黒瀬貴之(全国高等学校演劇協議会事務局長)
新型コロナウイルス感染拡大の高校演劇への影響を、2020年初めから9月までを時系列で振り返ってみる。高校演劇には学校教育の現場という側面もあるため、大人の商業演劇やアマチュア演劇よりも活動への規制は厳しい。
学校の年度末にあたる2月、3月は、高校演劇の世界では、自主公演、各地域の合同公演、演劇フェスティバルのシーズンである。全国高等学校演劇協議会主催の高校演劇コンクールは、7月~10月に五月雨式に全国各地の地区大会が行われ、県大会、ブロック大会と続き、そのシーズンの全国大会は翌年度の7月末か8月上旬となるため、ブロック大会で全国大会出場権を手にいれた演劇部の3年生は全国大会に出場することはできない。それ故、全国春季演劇大会(ブロック大会での次点校が推薦される)の参加や、自主公演は3年生演劇部員の高校生活最後の花道でもある。
2020年3月20日~22日、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館で予定されていた第14回春季全国高等学校演劇大会(春フェス)は中止となった。春フェスは、2018年第12回大会(横浜市・神奈川県立青少年センター)から、会場での上演とともにウエブ配信も行われているため、今回も会場での上演はなかったが、ブロック大会の記録映像配信が急ごしらえではなく6月1日まで実施された。(https://freshlive.tv/kouenkyo)
春フェス参加作品を地元で上演する自主公演、独自で企画する地域の演劇祭、合同公演、自主公演も、全国でほぼ全て中止となった。新学期になってから校内で上演というように延期を決めた学校もあるが、3年生がメインキャストの学校はそのまま中止を決めた。日本劇作家協会高校演劇委員会では、せっかく準備を重ねたのに上演がかなわなかった公演のチラシを集めて公開する「チラシフェスティバル2020」(チラフェス2020)を開催した。(https://nabegenhp.wixsite.com/kokoengeki/blank-3)
新年度に延期を決めた学校も、残念ながら夏までに実施できなかったケースが多い。
春フェス中止決定の3月の時点では、7月31日~8月2日に高知県高知市で開催されるはずだった第66回全国高等学校演劇大会の開催を、大会関係者の誰もが信じていた。しかしながら、8月中の代替大会実施模索もかなわず、結局、「2020こうち総文」自体がウエブ開催となり、演劇部門に参加するはずだった12校のうち11校が映像を提出し、審査は行われなかった。映像の内容は、ブロック大会の記録映像をそのまま提出した演劇部、提出のための自主公演を行なって新たに収録を行った演劇部、記録映像の公開をよしとせず映画として映像作品を新たに制作した演劇部、県のガイドラインにより収録ができないと提出を見送らざるを得なかった演劇部と、その対応は県や学校の事情によって別れた。(https://www.websoubun.com)
高校演劇の映像配信についてはそもそも賛否両論があり、映像では上演した演劇作品の機微は伝わらないとの考えから、これまでも春フェスでの映像公開を辞退する学校があった。撮影や映像編集の良し悪しが演劇作品に影響することはないのか、映像審査の是非に関しても多くの意見がある。2020ウエブ総文での配信は参加校自身がYouTubeで公開した動画リンクという方法をとったため、上演時に支払い可能だった音楽著作権使用料の映像配信のための支払いの問題が生じ、音楽使用シーンで音声をミュートするという選択をした演劇部が2校、選曲変更をした演劇部が1校あった。今後、映像配信を高校演劇の発表の場として常に視野にいれるなら、配信のプラットフォームをどう整えるかが、喫緊の課題である。
和歌山県田辺市で2021年夏に開催予定の全国大会(第67回全国高等学校演劇大会)に向けての地区大会(7月以降、五月雨式に開始)は、全国各地の事情、県のガイドラインの違い等により、対応が異なる。2020年9月22日現在、実施の場合の多くは、大会を成立させるために、無観客上演か、届け出た関係者のみ観劇するなど客席の出入りを限定し、演劇部員たちが他校の上演を観劇できないケースも多い。また、マウスシールドやフェイスシールドを装着の上、俳優同士の直接の接触を避けるなど、演出上の規制もアナウンスされている。地区大会を中止して県大会のみを実施しようと準備している地域、地区大会は映像審査のみという地域、近場に集う地区大会は実施するが、宿泊移動を伴う県大会は中止を決めた地域など、方針もさまざまだ。そもそも高校演劇の世界はインフルエンザ流行の影響が大きいので、今後のコロナウイルス感染状況によっては、各地での県大会が実施できるのか、ブロック大会が実施できるのか予断を許さない。また、同条件での上演、審査が難しい中、各ブロックから2021年度の全国大会出場校の選出をスムーズに行うことができるのか。全国大会審査を実施できなかった2020年度に引き続き、高校演劇はすでに来年度の課題に直面している。
日常の部活動やコンクール以外の公演もまた、コロナウイルス感染拡大の影響を受け続けている。年度始め4月の新歓の時期に休校や部活動禁止で、新入部員を獲得できなかった演劇部の話も聞こえてくる。また、文化祭・学校祭(夏か秋か時期はさまざま)自体が中止、延期という高校が多く、発表の場を持てないまま年度の半分が過ぎた。そもそも、無観客上演や上演自体なしという状況で、誰かに芝居を観てもらうという目標を持たずに、接触を避けつつの稽古のみをひたすら続けるモチベーションを保つのは、決して簡単なことではない。この状況は、観客に観てもらえない芝居が演劇なのか、という根源的な問いかけですらある。今年度の欠落はすでに次年度のひずみを生むことになり、多くの高校生が実質2年間しか高校演劇に携わることができない現実を鑑みるに、コロナ禍がさらに長引くとなるとその影響の甚大さは計り知れない。
2020年9月28日
全国高等学校演劇協議会
http://koenkyo.org/